選曲のエキスパート“ミュージックソムリエ”があなたに贈る、日常の1コマでふと聴きたくなるあんな曲やこんな曲――。
二十四節気の「大雪」に入り、いよいよ冬本番。イベントも多いこの季節に、心の唇をぎゅっと噛み締めて耐えるあなたに、浜田真理子さんをご紹介します。日本全国に口コミでじわじわ広がり、作家のファンも多数。今月20日には文藝春秋社主催でコンサートも予定されています。
1.「街の灯り〜Mr.Lonely」/ 浜田真理子
●今月20日のイベント、ぜひお越しください!
TBS系ドラマ「時間ですよ」劇中歌として堺正章さんと天地真理さんがデュエットしていた「街の灯り」(作詞:阿久悠/作曲:浜圭介)とTOKYO FM「JET
STREAM」オープニングテーマでも使われていた「Mr.Lonely」(Bobby Vinton)。浜田真理子さんの唄によって溶けあい、夜の海に穏やかにたゆたうようで、心のやわらかいところに沁みていきます。特に私は、♪街の灯り ちらちら♪の”ちらちら”に心がキュっとなります。
12月20日に行われる紀尾井ホールのコンサートにも携わる、ミュージックソムリエ協会の佐藤剛会長(作家・音楽プロデューサー)――「街の灯り」から「ミスター・ロンリー」に変わった瞬間の驚き、何度聴いても新鮮さが失われません。そして英語から日本語に移る心地よさ、極上の味わいです」。
2.「朝日のあたる家」/浜田真理子
●今年話題のノーベル文学賞受賞者もカバーした名曲
元はアメリカのフォーク・ソングで、その後ウディ・ガスリーやジョーン・バエズになどに歌われ、1960年代にはボブ・ディランやアニマルズにカバーされ、幅広く知られるようになった曲です。女郎屋に身を落とした女性の幸せな人生を諦めた暗い歌、その女郎屋は「The House of the Rising Sun—朝日楼」という。日本では昭和を代表する歌手、浅川マキ、藤圭子、ちあきなおみなどによって歌い継がれてきました。歌手の人生をも内包されているかのような、人の弱さの深淵を歌う声に惹き込まれます。
3. 「のこされし者のうた」/浜田真理子
●心の唇を噛みしめて、今日も生き抜く
浜田真理子のオリジナル曲「のこされし者のうた」。人が生きていく限り、別離はつきものですね。それが親しい人だと尚更、あらがう事も出来ない運命に打ちのめされもします。表情にも言葉にも出さず、寂しく辛い想いを心の唇でぎゅっと噛んで我慢しながら、のこされた者は生き続けていく。誰にも言えない想いを代弁してくれるかの様な歌の前では、泣いていいのだ。誰にも気づかれずにそっと涙を流して心の唇を癒して欲しい歌なのです。
4.「あなたへ」/ 浜田真理子
●女優・杏を虜にした“だれでもないあなた”
「何かになりたいとあなたは言う だれでもないあなたがそのまま好きです」――浜田真理子のオリジナル曲「あなたへ」は、自分を見失いそうになる時、自分の存在を確かめたい時にぴったり。静かに揺るぎない存在感を持って自分の存在を肯定してくれます。
寺島しのぶ主演の映画『ヴァイブレータ』のエンディングテーマで話題となり、また、女優・杏さんがNHK『ミュージック・ポートレイト』で、“これまでの人生で出会った大切な曲”の一つに、自身のアルバム『LIGHTS』でもカバーした浜田真理子のこの歌を挙げていました。
5.「人生一路」/ 浜田真理子
●美空ひばりが東京ドーム公演の最後に選んだ歌
美空ひばりさんが亡くなる1年前の東京ドーム公演の最後を締めくくった曲です。満身創痍で緊急入院してから奇跡の復活を遂げ、お客様にこれからまだまだ歌手として歩いて行くという姿を見せたいと、亡き弟、加藤和也さんが作曲したこの曲を、ひばりさんは光り輝く白い花道を歌い進んで行かれました。今でも語り継がれる伝説のライヴの1つです。
決意に満ちた力強い歌ですが、浜田真理子さんの唄う「人生一路」はどちらかというと軽やかなのかもしれません。但し、そこには一人一人の人生を励ますような、讃歌に近い歌に聴こえてくるのです。
浜田真理子さんがカバーする昭和の歌謡曲には、不朽の名作が数多く存在します。その名作を現代に蘇らせ、人に忘れ得ぬ感動をもたらすにはどれだけの趣味趣向の違うお客様を相手にしてきたら辿り着けるのでしょう。人生は辛く、苦しく、時に悲しく、寂しい。それでも生き抜く力は素晴らしいと思わせてくれる、絶望に寄り添いながらも浜田真理子さんの歌には生きる希望や底力を感じさせてくれるのです。
(選曲・文 麻布さやか)
【参考】
●文藝春秋<文春トークライブ 第12回>浜田真理子「昭和」をうたう
http://www.bunshun.co.jp/info/talklive/
編集:吉川さやか
参考:ミュージックソムリエ養成講座